9.君にこそ心ときめく




とある普通の人に話を聞いてみれば
きっと「真面目そうで、おとなしそう」と答えるであろう。
でも実際そんな風に外見だけで決め付けられてしまうと、人はどうしようもなくなる。
生まれたときからそんな風に決め付けられて、他人がそう望むからそう演じて。
「だったら、あなたは何がしたいのよ?」
容赦なく聞いてくるね。僕は苦笑いした。
「あなたがやりたいことやればいいんじゃないの?」
(それができないから困ってるんだけど・・・)
言いたかったけど、言葉にならなかった。
アキは愛想をつかせ、「はぁ」とため息をついた。
「ごめんね、今日はもう帰るね」
そう言って立ち上がるアキを、僕は引き止めることはできなかった。
「うん、また」
多分すごく無愛想な顔をしてただろう。アキは小さく手を振って教室から出て行ってしまった。
誰もいなくなった教室。
今は12月だし、夕方の6時でももう十分すぎるくらい真っ暗になってしまっている。
天井の蛍光灯が1つ、ぽつりとついているだけ。
少し寒気を感じて、くしゃみがでた。
窓の外を見下ろすと、丁度アキが校門から出て行くところが見えた。
真っ暗な中、1人で。
「ごめんな・・・」
ここで言っても意味がないのに。さっき言えばよかったなと後悔する。
がたん、と音を立て椅子に座る。
今までにないほどの寂しさを感じた。
「何がやりたいんだろうね、僕は」
自分でもわからない答えは、他人がわかるわけないし。
ここで悩み続けても無駄だと言うことにやっと気づき、僕は家に帰ることにした。
さっきアキと一緒に帰ればよかったな、とまた後悔した。


次の日、昼休みにアキからメールが来た。
「今から、屋上に来てほしい」
一応、僕とアキは、彼氏彼女の関係。呼び出されたってなんらおかしくない。
何のことか気になったけど、僕は急ぐ必要もないだろうと思って急がなかった。
ゆっくり歩いて、屋上のドアを開ける。
アキは、僕に背中を向けて待っていた。
「呼び出すなんて、何か大事な用?」
僕はそういって彼女の隣に座る。
風に吹かれて屋上のドアが大きな音を立てて閉まった。
「私たち、別れましょ」
アキは、僕の顔を見ないで言った。
僕はそのとき、何も取り乱すことなく
なんらいつもとかわりない表情だったと思う。
「・・・」
返事のない僕のかわりにアキは、泣いていた。
「ねぇ・・・、ねぇどうして?どうしていつもそうなの?私のことなんかどうでもいいの?私のこと、邪魔だった?ならそうだって言ってよ。私そんなのわかんないよ。人の心なんて読めないもん。いっつもサクはそんなんばっかで。ずるいよ。ひどいよ。私のこと愛してるって言ったじゃない。言って、くれたじゃない・・・」
アキはぼろぼろ涙をこぼして、僕の目を見つめていた。
僕は、また笑っていたのかもしれない。
アキはもうそれ以上何も言わず、屋上から出ていった。
最後に一言、「さよなら」を残して。
残された僕は、何もいえなかった。
やる気のない顔をして、何を考えていたのだろう。
やっぱり自分でもわからない。
ただいえることは、アキの涙の理由は考えてなかった。
最後の最後まで僕は、アキにひどいことばっかりしていた気がする。
でも、もう何もしてやることはできない。


予鈴が鳴り、僕は教室に戻った。
残りの授業中、僕は夢を見ていた。
アキが僕に告白してくれたときのこと。
初めて手をつないで夏祭りに行った事。そこで初めてキスしたこと。
夢の中の僕とアキは、ずーっと笑ってた。
目が覚めたら、もう授業はとっくに終わっており
みんな帰る支度をしていた。
僕はいつもどおり、ぼーっと座っているだけ。教室が空になったところで、僕はさっきのことを思い出した。
屋上での出来事。
数時間前のことだけど、もうすごく前のことだった気がする。
もうアキは僕のところへは来ない。
昨日まで笑顔で僕のそばにいたのに。
思い返すと、僕は後悔してばっかりだった。
アキにはたくさんしてあげたいことがあったけど、どれもしてやったことがなかった。
それでもアキはたくさん笑ってくれたし、うれしいって言ってくれた。
そのときは僕も、一緒になって笑ってた気がする。
いつからだろう、こんな僕になってしまったのは。
いつしか、アキの笑顔に後悔するようになって
自分の中で抑えていればいいと思い込んで
素顔を隠して、本音を隠して。
こんなことをしているうちに、感情がかけてしまったのかもしれない。
アキは、ずっと笑ってたのに。
時計を見るともう6時で
窓から見下ろした校門には、アキはいなかった。
(当たり前だよな・・・)
そしたら急に、僕はすべてが怖くなった。
涙が出てきて、とまらなかった。
誰もいない教室で、僕は声をあげずに泣いていた。
もう誰も僕のことに気づくやつなんていないだろう。
もう誰もこの涙の理由を知る人はいないだろう。
今の僕なら、すべてがわかる気がする。
アキのことも、僕が何を考え悩んでいたのかも。
「気づくのが遅すぎたね。ごめんな、アキ」
もう届かない言葉。でももう後悔したくないから言う。
僕が考えていたこと。
それは後悔だらけの記憶の中で、アキは後悔じゃなかったということ。
今わかった答え。もう、意味のない答え。
アキは僕にとって大切な存在だった。
アキはそんなこと、とっくに知っていたのかもしれない。
アキにとって僕がそういう存在で、僕が何を考えていたのかも、アキにはすべてわかっていたのかもしれない。
メールが1通、届いていた。
アキから。
「ごめんね、サクちゃん。私ばっかり言いたいこと言って。私の思いはもうすっきりはいちゃったから。今度は私がサクちゃんの話を聞いてあげるね」
え・・・?
僕はあわてて続きを読む。
「ほんとはね、サクちゃんを試してたの。別れようって言ったらなんて言ってくれるか。でもね、サクちゃん何も言ってくれなかった。だからつい涙があふれちゃって、私めちゃくちゃ言っちゃったよね。ごめんなさい。続きはまた、明日お話します。だから、明日また屋上に来てください」
「嘘だろ・・・?」
僕は完全にあきれていた。自分に。
手に力が入らない。携帯を落としそうになる。
どうして気づいてやれなかったのか。
ほっと、僕はすごく安心感を覚えた。
まだアキが僕のそばにいてくれると思うと、こんなにも違うなんて。
明日、お礼を言いに行こう。
もう照れる必要もない。ためらう必要もない。
アキは、自分の悩みだけじゃなくて、僕の悩みまでも解決してくれたのだから。
アキ、明日僕は会いに行くよ。
ちゃんと僕の思いのすべてを君に伝えるよ。
だから、それまで笑顔で待ってて。
僕にとって、君は大切な存在なのだから。
失いたくない、大切な人。もう絶対離さないから。


-End-

by Ria. from05/7/17


あとがき

なぜか名前がセカチュウの2人になってしまいました。そこら辺はお気にせず読んでいただけたらなと・・・。
何より名前を考えるのが苦手でして(汗
このお話は、自分にとって大事な人はすぐそばにいるんだよというようなお話が書きたくて書きました。
結構このアキちゃんは僕の理想の塊だったりします。
カップルのことなんて良くわからなくて・・・、むずかしいっ。


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